定年を機に、家を建て替えるということ
「仕事が一段落したら、家のことを考えようと思っていた。」
そう言う方に、何人かお会いしてきました。
子育てが終わり、ローンも終わり、ようやく自分たちのための時間が見えてきた。
そのタイミングで、今の家を見回して、初めて気づくことがあります。
「この家は、誰のための家だったのだろう」と。
子育て中の家づくりは、子どものための家づくりが中心となります。
子ども部屋、収納、通学の動線。
すべてが「今の家族」を中心に設計されます。
それは正しい選択でした。
でも定年を迎えた夫婦が本当に欲しいのは、もっと別のものではないでしょうか。
静けさ。余白。そして、自分たちの暮らしの本質。
1. 建て替えか、リノベーションか
よく聞かれる問いです。
どちらが正解かは、敷地・建物の状態・予算・求める性能によって変わります。
ただ私の経験から言うと、
耐震性能、断熱性能、気密性能を現代の水準まで引き上げることを前提にするなら、
建て替えの方がコストパフォーマンスが高いケースは多いです。
既存の家に手を入れながら断熱等級6・耐震等級3を実現しようとすると、
工事の手間と費用は想像以上にかかります。
一方、建て替えであれば最初から性能を設計に組み込めるため、結果的に無駄が少ない。
もちろんリノベーションが向いているケースもあります。
築年数が浅い、構造が健全、愛着のある家を活かしたい——そういう条件が揃っているなら、
リノベーションは十分に選択肢になります。
どちらが正解かは、まず現状を正直に見ることから始まります。
2. 退職金を家づくりに使うことへの、私の考え
老後の資産を家づくりに使うことへの不安は、多くの方が持っています。
それは当然のことです。
ただ、少し視点を変えてみてください。
断熱・気密性能が高い家は、光熱費が少ないです。
耐震性能が高い家は、大地震の際、大きな修繕が起きにくいです。
維持管理のコストが低い家は、長く住むほどに経済的です。
建てるコストだけで判断するのではなく、住み続けるコストまで含めて考えること。
その視点で見ると、性能の高い家への投資は、老後の資産を守ることと矛盾しません。
「無理をしない家づくり」とは、安く建てることではありません。
長く、無理なく住み続けられる家をつくることだと、私は考えています。
3. 「終の棲家」という言葉への、率直な違和感
私はこの言葉を、少し置き換える必要があると感じています。
「終わり」に向けて設計するのではなく、「これからの暮らし」に向けて設計したい。
老後のための家ではなく、これからの人生を豊かにするための家。
その言葉の違いは小さいようで、設計の出発点をどこに置くかで、できあがる家は大きく変わります。
定年後の20年、30年は、決して短くありません。
その時間を、どんな家で過ごすか。
それは人生の後半を、どう生きるかという問いと、ほとんど同じことではないでしょうか。
4. 設計事務所に頼むということ
ハウスメーカーとの違いをよく聞かれます。
大きな違いのひとつは、「誰が設計するか」です。
ハウスメーカーには規格があり、その枠の中で選ぶことになります。
設計事務所は、その家族のために一から考えます。
定年後のふたり暮らしに本当に必要な広さ、動線、光の入り方。
そういうことを、一緒に時間をかけて考えることができます。
もうひとつは、工務店の選定です。
設計事務所は設計と工事監理を行いますが、施工は地域の工務店に依頼します。
複数の工務店から見積もりを取ることができるため、工事費の透明性が確保されます。
設計料は別途かかります。
弊所の場合、24,200円/㎡(税込)です。
ただし、設計の段階で無駄を省き、性能を正しく組み込むことで、結果的なコストのバランスは整えられます。
仕事を全うし、子育ても終えた。
そのとき初めて、自分たちのための家を静かに考え始める方がいます。
急がなくていい。
でも、考え始めるのに早すぎることもない。
設計者が家族と実際に暮らす自邸を、毎月限定で公開しています。
断熱等級6・耐震等級3の住まいが、実際にどんな空気感なのか。
まずは体感しにきてください。