「自宅の耐震性能はどの程度なのか・・・?」
「大地震が来たときに倒壊しないのか・・・?」
といった疑問から、近年、耐震診断/耐震改修への関心が高まっています。
特に2024年の能登半島地震の影響もあり、自宅の耐震性能を心配する方々からのご相談が増えています。
耐震診断は、建物の既存図面や実際の状況を基に、劣化の状態や耐震性能を計算し、
数値(評点)でその建物がどれほど耐震性を持っているかを判断する方法です。
評点1.0以上で「一応、倒壊しない」とされ、
これ(評点1.0)は、現在の建築基準法に基づく耐震性能と同等 ≒ 耐震等級1 とされています。
私の経験から、2000年以前に建てられた住宅で耐震診断を行うと、評点1.0以上に達するケースは非常に少ないように感じます。
2000年6月1日に施行された新耐震基準(現行基準)では、
建物の柱・梁の接合部に金物を使用する仕様が明確にされ、これにより耐震性能が大幅に向上しました。
しかし、2000年以前に建てられた建物には、このような金物が使われていないケースが多く、耐震性能が低いことが懸念される為です。
ここで疑問が生じました・・・
『私が設計した耐震等級3の住宅を耐震診断した場合、どの程度の評点になるか・・・?』
一般的に「耐震診断 評点1.5 ≒ 耐震等級3」と言われていますが、
耐震診断と耐震等級3(許容応力度設計)の計算方法は大きく異なります。
果たして耐震等級3(許容応力度設計)の建物は、評点1.5程度になるのか・・・? 実際のところはどうなのか・・・?
そこで・・・
許容応力度設計にて耐震等級3を確保している弊所4つの事例について耐震診断を行ってみることにしました。
・耐震等級3 許容応力度設計で計算した元データを耐震診断ソフトへ読み込ませ、新たに耐震診断を実施。
・耐震等級3 許容応力度設計で計算した元データをより正確に評価する為、一般診断法ではなく、精密診断法で耐震診断を実施。
・耐震等級3 許容応力度設計で使用した耐力壁面材を構造用合板仕様として、耐震強度を1割程低減した数値にて計算。
ここで、まずは耐震診断(評点)の考え方について簡単に説明しておきます。
耐震診断では、建物の耐震性能を「各階」の「X方向(建物の長手)」「Y方向(建物の短手)」の2方向に分けて計算します。
たとえば、木造2階建ての建物の場合、
1階 X方向の評点
1階 Y方向の評点
2階 X方向の評点
2階 Y方向の評点
合計4つの評点が計算されます。
そして、その中でもっとも低い評点がその建物全体の耐震診断 評点となります。
それでは、各事例の診断結果を見ていきます。
◆事例1
1階 X方向 評点:3.13
1階 Y方向 評点:2.26
2階 X方向 評点:4.77
2階 Y方向 評点:2.27
∴評点 2.26
◆事例2
1階 X方向 評点:2.21
1階 Y方向 評点:1.76
2階 X方向 評点:3.26
2階 Y方向 評点:2.90
∴評点 1.76
◆事例3
1階 X方向 評点:2.12
1階 Y方向 評点:2.03
2階 X方向 評点:3.03
2階 Y方向 評点:3.90
∴評点 2.03
◆事例4
1階 X方向 評点:1.76
1階 Y方向 評点:2.39
2階 X方向 評点:2.69
2階 Y方向 評点:3.94
∴評点 1.76
2つの事例で評点1.76という結果が出ました。
事例2:1階 Y方向
事例4:1階 X方向
この2つの事例を詳しく見てみると、評点が低くなった箇所は、日射を取り込むために開口部(窓)を多く設けた部分でした。
窓が多い分、耐震要素である壁が減少し、結果として、その箇所の評点が低くなったと考えられます。
上記の結果から、
耐震診断 評点1.5と耐震等級3は「完全に一致するもの」ではなく、
「おおよそ同等」と捉えるのが適切です。
実際には、
許容応力度設計に基づく耐震等級3を確保しているお宅は、耐震診断での評点1.5以上の耐震性能を有している、と考えられます。
大地震が発生した後でも、
安全に住み続けることができること、
大規模な修繕工事を必要としない状態を目指すこと、
が理想的です。
そのためには、耐震診断の結果に基づき、評点をどの程度まで引き上げるかが大きな課題となります。
一般的に、評点1.0を下回る建物は倒壊のリスクが高いため、最低限評点1.0以上を目指すことが推奨されています。
しかし、地震後も安全で快適な生活を維持するためには、予算が許す限り『評点1.5以上』を目指すことが理想的です。
特に、耐震等級3に相当する評点を達成することで、地震後も大掛かりな修繕工事が不要となり、安心して生活できる住まいとなります。
以上を踏まえ、耐震改修の計画では、できる限り評点を向上させるための工夫が不可欠です。
耐震診断|耐震改修|耐震等級3(許容応力度設計)
ご相談を受けた成田市のお宅
お借りした既存図面の復元作業など下準備を終え
先日、現地調査を行いました。
まずは外部の状態を確認します。
基礎に一部ひび割れが見られるものの、非常に良好な状態です。
続いて、内部の状態を確認します。
床下点検口・天井点検口から、構造材の接合状況・筋交いなどの耐震要素の接合状況も合わせて確認します。
柱と梁の接合には、金物(通称:羽子板ボルト)も確認できましたが、使用は限定的な状態となっていました。
現地調査の内容を基に耐震診断の計算を行い、後日改めて、診断結果を報告に伺う予定です。
耐震診断のご相談を受け、成田市まで現地確認へ行ってきました。
お住まいがとても広く立派(仕事で関わった住まいの中で一番広いのでは・・・?)
既存の平面図や基礎の図面なども残っていた為、診断までの下準備がスムーズに進められそうです。