先日、といっても少し前ですが、家族で箱根へ行ってきました。
妻の誕生日が近づいていたので、表向きは”誕生日祝い”ということにしましたが
実は内心、個人的な裏テーマがありました。
以前から気になっていた、村野藤吾氏設計のザ・プリンス 箱根芦ノ湖(1978年竣工)を体感することです。
少し暗めで、天井高さを抑えた、エントランス、そしてレセプションを通り
L字に曲がるとロビーに着きます。このロビーが今回のハイライトで、一番楽しみにしていた場所なのです。
『お~!』と心の中で声を上げました。
もうすでに気分は最高潮、旅の目的がほぼ達成されたような気持ちです。
ロビーで一晩過ごしてもいい!とまで思うほどです。
ロビーは、天蓋のような天井と石貼の壁柱で仕切られた待機スペースが特徴的で
重心を下げるように置かれた座面の低いスワンチェア、黒いタイルと赤い絨毯が組み合わさって、落ち着いた雰囲気を演出していました。
客室棟は円形になっています。
今ではあまり見ることのないデコラティブな印象ですが嫌味を全く感じません。
ベランダ同士と最下階の窓を隔てる垂直方向の袖壁も特徴的です。
(※あとになって、この垂直方向のデザインは木々との一体感を高めるために木の幹をイメージしたのでは?と解釈しました。)
館内にもデコラティブなデザインが各所にあり、村野建築としての拘りを随所に見ることができます。
なぜ客室棟は円形なのか?
芦ノ湖側に全客室を向ける事ができない円形を採用した理由は?
これは私の解釈ですが、
建物ではなく自然を主役と捉え、建物の存在を極力消す為では?と勝手に思っています。
周りの自然に対して、どこから見ても見付面積が一定で、弧を描きながら、自然へ溶け込む。
そいった意図ではないでしょうか?(違うかな??)
実施、船に乗り、芦ノ湖側から建物を見てみると、建物自体が3層と高さが低く抑えられていること
そして、建物が地面から生えているような設計ということが相まって、ほとんどその存在を感じませんでした。というか、よく探さないと見失います。
ベランダ袖壁のデザインと木々が一体になる効果も見て取れました。
完全に木々と一体になっています。外壁色の選択も流石で、見事に風景と合っています。
竣工当時の45年前、木々がどの程度成長していたか分かりませんが
村野氏はこの光景を想像しながら構想を練り
そして、オーナー側は、村野氏の意図に共感し、”芦ノ湖&富士山が見える”という、この土地最大のチャームポイントを一部切り捨てた円形型の採用を認めた。
そう考えると、頭が下がります。
45年にわたる丹精込めたメンテナンスと使用によって、今でも魅力的な姿を保ち続ける建築に感銘を受けました。
今後の時代を見据えると、長く使い続けるためには、建物の魅力と性能が不可欠と考えます。
そして、これらは切り離して考えるのではなく、同時に注力すべき要素です。
片方が欠けてしまうと、いずれどこかのタイミングでしわ寄せがくることになります。
そういったことを念頭に、さまざまな視点から丹念な提案を行いたいと改めて感じました。